”それ”は、数日前の夕暮れ時のことでした。近所を散歩していた私の頭に、突然『何か』が激突!あまりにも突然のことに思わず悲鳴をあげましたが、ふと前方の空を見上げると、遠くに1匹の『アブラコウモリ』が飛び去っていくのが見えました。(アブラコウモリ…日本に最も多く生息する野生コウモリ)
私は『コウモリ好きな人間』ですので、頭に衝突してきたのがコウモリだとわかった時点で「な~んだコウモリだったんだぁ」とホッコリした気持ちになりました。

そういえば、昔、私と同じく『コウモリに衝突された人間』がいました。『コウモリに衝突された人間』とは、私が以前勤務していた動物病院に入社してきた、年下の後輩「Nちゃん」。

ある日の朝、私たちが働く動物病院の入り口から、入社したてのNちゃんが、慌てた様子で院内に駆け込んできたんです。

Nちゃん:「センパーイ!!」
私:「どうしたの~Nちゃん!?」
Nちゃん:「昨日、仕事の帰りに歩いていたら、いきなり頭にコウモリがぶつかってきたんですよ~!!」
私:「へぇ~!珍しいこともあるもんだねぇ。」
Nちゃん:「先輩ホラ、ココ見てください!爪痕みたいな傷、付いていないですか?!」
どうやら彼女は、頭にコウモリが衝突してきた際、「頭皮を引っ掻かれて、傷でもついてしまったのでは…」と、昨晩からかなり心配していた様子。Nちゃんは当時、就職により親元を離れて一人暮らしを始めたばかり。彼女の身近には『悩みをすぐに相談できる家族』がいませんでした。

また、後からNちゃんに教えてもらった話によると、彼女の実家は以前『コウモリのフン被害』に悩んだ経緯があったとのこと。野生動物に詳しくなかったNちゃんは、野生コウモリに対して、ひたすら“不潔なイメージ”を抱いていたんです。幸い、Nちゃんの頭に傷は見当たらなかったため、私がそのことを伝えると、彼女はようやく安心したようでした。

私はその後、Nちゃんに『コウモリの生態』に関して詳しく説明しました。その際に合わせて、野生のコウモリだけでなく『ペットとして人間に親しまれているコウモリがいる』ということも伝えたところ、私の解説は、Nちゃんの気持ちを“予想外の方向”へと導いてしまい…。

Nちゃんはその後、コウモリを恐れるどころか、反対に“強い親しみ”を寄せるようになっていったのです。Nちゃんは確か、『コウモリ衝突事件』の2~3ヶ月後には、ペットとして自宅で飼育できる「フルーツバット」を自宅で飼育し始めたはずです。

今回の記事では、Nちゃんのように“コウモリは不潔で怖いのでは?”というイメージを抱かれている読者の方へ、私が『動物病院5年勤務の経験』で得た『コウモリの生態』について紹介します。

「コウモリを飼育してみたいけれど、どんなことに気をつけたらいいの?」「番(つがい)で飼育した場合、子供は生まれるの?」といった疑問にもお答えしています。この記事をご覧いただくと、野生コウモリと対峙した場合にも、『飼育可能なコウモリ』を自宅に迎え入れる時にも、心に余裕を持って対応できるようになりますよ。

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1 コウモリについて

コウモリについて
コウモリって、どんな生き物なんでしょう?
小さな体で、どんな風に冬を越え、どんな風に繁殖するのでしょうか?
コウモリは、ザックリ言うと『脊椎動物亜門哺乳綱コウモリ目』という種に属する『飛行動物』です。

コウモリ(蝙蝠)は、脊椎動物亜門哺乳綱コウモリ目に属する動物の総称である。別名に天鼠(てんそ)、飛鼠(ひそ)がある。

 
Wikipedeiaより抜粋 https://goo.gl/H114tn

なかでも、日本にもっとも多く生息している『アブラコウモリ』は、体長が4~6cmと、コウモリ目の中では身体が小さく、つぶらな瞳が憎めない“ブサ可愛い”顔つきをしています。

ちなみに、コウモリの種数(しゅすう)※は、我々哺乳類の1/4を占めるほど多く、世界におよそ980種類のコウモリが分布し、各々の生態系を保っています。

※種数…種類の『数』のこと
私が「ここが面白い!」と感じているのは、コウモリの『翼の特徴』についての記述です。

ハトやカラスといった鳥は、翼が『羽』で覆われていますが、コウモリの翼には一切の羽がありません。

彼らは『飛膜(ひまく)』という“薄い皮質の翼”を器用に羽ばたかせることで、空を自由に飛び回るのです。

鳥類の翼は羽毛によって包まれているが、コウモリの翼は飛膜と呼ばれる伸縮性のある膜でできている。

 
Wikipedeiaより抜粋 https://goo.gl/H114tn

だから、コウモリは『完全飛行』が可能であるにも関わらず『鳥類』に分類されることはなく、あくまでも『コウモリ目』として独自の存在感を放ってきたんですね。

生態

世界中に生息するコウモリのうち、日本にはおよそ35種類のコウモリが分布しています。日本だけで35種類あまりのコウモリが生息しているのですから、日本は、一部のコウモリにとって『住みやすい国である』ということが伺えます。

『翼を覆う羽』がないコウモリは、どの種類も『寒い季節』が苦手。『温かな季節』を好んで活動しますので、夏の始まりである6月頃から、外で見かけることが多くなります。

そして秋が深まる10月頃には活動が沈静化し、冬に入る11月頃には、どのコウモリも洞窟に入り冬眠し始めるため、外で見かけることがほとんどなくなります。

繁殖力

皆さんは、コウモリが『どうやって交尾を行うか』をご存知ですか?いつも高い所からぶら下がっているコウモリですが、交尾も『ぶら下がったまま』行われるんです。しかも、コウモリの“繁殖形態”は、他の哺乳類動物とはチョット違います。

『オスコウモリ』は、人間でいうところの『一夫多妻制』で、オスコウモリは沢山の『メスコウモリ』と交尾を行うことで、多くの子孫を残そうとします。

秋にオスコウモリと交尾を行ったメスコウモリは、“着床遅延”という『独特な生殖機能』によって『受精時期』をコントロールし、越冬後の春4月頃に『着床』し、7~8月頃に平均2~3頭の『子コウモリ』を出産します。

つまり、前年の秋に行った交尾によって、翌年の夏頃に『子コウモリ』が誕生するというわけです。ちなみに、コウモリの赤ちゃんは短期間でみるみるうちに成長し、生まれたその年の秋には、自身が生殖活動を行うまでに大きくなります。

被害

アブラコウモリは、我々人間にとって『益獣(えきじゅう)』にも『害獣(がいじゅう)』にもなりうる哺乳類。

ちなみに『益獣』とは、我々人間に『何らかの恩恵をもたらしてくれる動物』のことで、『害獣』は『我々に害悪をもたらす動物』を指します。アブラコウモリが、エアコンダクトや通気口の隙間から家の中に侵入すれば、屋内で『フン被害』という問題を起こしますし、屋内ではなく、家の外にフンを撒き散らして、汚されてしまうこともあります。

一方で、アブラコウモリは『蛾』や『蚊』といった害虫を『餌』として捕食しているため、『益獣』としても重宝されています。

危険性

益獣なのに、害獣にもなりうる、野生のアブラコウモリ。野生コウモリの身体の表面には『シラミ』や『ダニ』といった吸血害虫が寄生している確率が高く、体内には『カビ菌』や『狂犬病ウィルス』が保有されている可能性があります。

また、私たちがアブラコウモリを手で触ったり、掴んでしまうと、危険を察知した野生コウモリが手に噛みついてくることもあります。野生のコウモリに噛みつかれると、我々人間は、彼らが保有する雑菌やウィルスに感染してしまう恐れがあります。

ですので、野生のコウモリを触る場合には『薄手のゴム手袋』と『厚手の軍手』の両方を着用した方が安全です。万が一、野生のコウモリに噛みつかれてしまった時は、雑菌やウィルスによる感染の被害を最小限に抑えるため、以下の順序に沿って対処してください。

噛まれた時の対処法

ステップ1 患部を水で洗う

もしも、野生のコウモリに噛みつかれてしまったら、まずは噛まれたところを流水下でしっかりと洗いましょう。コウモリの口内にある雑菌やウィルスを、噛みつかれた皮膚から絞りだすように、噛まれた部分をギュッギュッとつまむようにして洗うとよいです。

ステップ2 消毒する

患部を水で洗ったら、次に『スプレータイプの消毒液』を吹きかけるなどして、噛みつかれた皮膚を殺菌・消毒してください。

ステップ3 皮膚科に相談する

洗浄・消毒処理が済んだら、最寄りの皮膚科へ『野生コウモリに噛みつかれたこと』を事前に相談し、看護師や医師の指示に従って、速やかに受診しましょう。皮膚科では、野生コウモリの雑菌やウィルスが体内に拡散しないよう、抗生物質を投与するなどして、対処してくれます。

2 『ペットとして愛されている』フルーツバットについて

ここまで『コウモリの危険性』について触れましたが、これは『野生のコウモリ』に限ったことです。

日本国内のペットショップで売られている『フルーツバット(飼育可能なコウモリ)』は、全て日本国内で生まれ、飼育されてきた『衛生的なコウモリ』です。どの個体も、事前に『寄生虫』や『狂犬病』といった病原体の検査を受けていますので、私たちの手に渡るのは“危険性の無い個体”だけ。

つまり、フルーツバットは、「コウモリを飼いたい」という方が、安心して飼育できるコウモリなんです。

フルーツバットとは?

フルーツバットとは、『果物』を食べて生きるコウモリのこと。『オオコウモリ』と呼ばれる、いくつかのコウモリ目の総称です。体長はおよそ7~15cmで、攻撃性は少なく、無理やり掴んだりしない限り、噛みついてくるようなこともありません。

フルーツバットは、目の小さなアブラコウモリと対照的に、目が大きくクリッとしていて、とても愛らしい顔つきをしています。

飼育方法

フルーツバットは、単体で飼育するよりも『多頭飼育(たとうしいく)』に向いている動物です。

※多頭飼育(たとうしいく)…複数頭(匹)の動物を同時に飼育すること
なぜなら、フルーツバットはもともと『数匹の群れをなして生息するコウモリ』であるからです。オスとメス1匹ずつで飼育すれば、わりと簡単に交尾が行われますので、着床や妊娠が順調に進めば、子コウモリを目にすることもできます。

より多くの子孫を残すために

より多くの『子コウモリ』を残したい場合には、オスの『一夫多妻制交尾の性質』を利用して、オスではなくメスの飼育頭数を増やすとよいでしょう。

飼育中の気温

フルーツバットは、他のコウモリ目と同様『温かな気候』が好きです。

飼育時の室温は、だいたい20~30℃の間が理想的。

気温が低くなりがちな地域にお住まいの場合や、寒い季節が到来する時には、電球タイプのペットヒーター(発熱機器)をゲージ内に設置して、暖を確保してあげましょう。ペットヒーターは、発光の柔らかな『赤外線タイプの保温球』が最適です。

飼育場所

フルーツバットは、野生のコウモリと同じく、時に空を飛び回ります。

ゲージから出して室内へ放すと、糞尿によってお部屋が汚れてしまう可能性があるので、あらかじめ『広さ』と『高さ』のある大型の鳥類ゲージを購入し、フルーツバットが『ある程度自由に羽ばたける空間』を確保しておくのが理想的です。

エサ

食事は、バナナ、リンゴ、ブドウなどの果物を与えます。鳥類ゲージと一緒に、小動物用の給水器も購入し、ゲージに取り付けて、お水も与えてください。

フルーツバットは、果物全般を好みますが、個体によって食べ物の好みが違うこともありますので、よく食べる果物を与えるとよいです。

ただし、果物だけでは『栄養のバランス』が偏ってしまう恐れがありますので、1日に1度程度、以下の『ペットフード・ドリンク』を与えて、栄養の偏りを防ぎましょう。

  • ピーポレン…栄養豊富な花粉。フルーツバットは、果物だけでなく花粉や花の蜜も食べます。
  • ローリーネクター…粉末状の栄養フード。ぬるま湯やお湯で溶いて、フルーツバットに飲ませます。
  • ゴートミルク…ヤギ用のミルクですが、フルーツバットに『たんぱく質』を補給させたい時にも使用されます。

これらのペットフード・ドリンクは、ペットショップや通販サイトで購入することができます。

フルーツバットの魅力

フルーツバットは『犬』や『猫』といったペットよりも低価格で購入できる点が魅力的です。そして、なんといっても『顔がカワイイ』!

他のコウモリに比べて穏やかで優しい顔つきをしており、コウモリの『不潔で恐ろしいイメージ』が感じられないという点も、“コウモリ好き”に親しまれる1つの理由となっています。

フルーツバットの短所

『意外と飼育費用がかかってしまう』というところです。

フルーツバットの主食は果物ですが、せっかく与えた果物も、フルーツバットが全て食べずに残してしまえば、傷む前に『新しい果物』と取り換えなくてはなりませんので、飼育頭数によっては食費がかさみます。

また、フルーツバットは『大きな音』や『環境の変化』に敏感なので、大切に、慎重に飼育しなくては、ストレスによって早いうちに死んでしまうこともあります。

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3 面白い『コウモリの文化』の違い

最後に、『コウモリの文化』に関する豆知識をチョットだけ紹介します。

我々日本人にも、人によって『コウモリが好き!』『コウモリは嫌い…』という好みがあるのと同じで、国によって『コウモリに対するイメージ』が違うということをご存知ですか?西洋世界ではどう思われているのでしょう?中国では?日本人が抱く『コウモリに対するイメージ』についても、簡単に紹介します。

西洋世界でのコウモリ

西洋世界において、コウモリは『“不気味さ”の象徴』として捉えられてきました。

「黒い空の中にそびえ立つ『塔』の周りを飛び回るコウモリ」「口元を赤く染める『吸血鬼』は、身を『コウモリ』に変身させ、空を舞うことができる」など“気味の悪さ”や“恐れ”を表現する時に、コウモリの姿が投影されることが多いです。

西洋には「動物の血を吸うコウモリ」が生息しているため『コウモリは不吉で危険である』というマイナスなイメージが根付いているんですね。

中国でのコウモリ

西洋文化とは対照的に、中国では、コウモリは『幸福の象徴』として捉えられてきました。

それは、中国語表記(日本語表記も同様)の『蝙蝠(こうもり)』の『蝠』の字が、『幸福』の『福』と同じ読みであることから、古来より『福を呼ぶ動物』としてあがめられてきたためです。皇族の衣装や茶道具、春節(旧正月)の飾りなどに『コウモリ』と『蝶』を合わせたような絵柄が採用されてきたのは『コウモリの福運にあやかりたい』という願いから。

その他さまざまな製品の商標にも『コウモリのマーク』が施されています。

日本におけるコウモリ

古い時代の日本では、中国文化の影響により、コウモリは『縁起の良い動物』として捉えられていました。

しかし、中国文化よりも西洋文化の影響を強く受けている『現代の日本』においては、西洋人と同様に『コウモリは不気味である』というイメージを抱く国民が多い傾向にあります。

まとめ

今回の記事では『コウモリの生態』や『繁殖』『文化の違い』などをご紹介しました。確かに『野生コウモリ』は不潔ですし、我々人間は、野生コウモリがどんな『菌』や『ウィルス』を保有しているか、そのすべてを把握し切れているわけでもありません。

しかし、フルーツバットは決して不衛生ではありません。人間の生命を脅かす『菌』や『ウィルス』を保有してはいませんので、『感染』や『寄生』を恐れる心配は無用です。

ぜひ一度、ペットコーナーなどでフルーツバットを探してみてください。愛らしい姿に、目を奪われること“間違いなし!”です。