テレビで『コウモリの生態』に関する特集が放送されているのを見て、ふと、筆者のママ友が以前“ある相談”を持ちかけてきた時のことを思い出しました。彼女が持ちかけてきたのは、なんと「衰弱したコウモリの赤ちゃんをベランダで保護した」という『差し迫った相談』でした。

ちなみに、彼女が保護したのは『アブラコウモリ』という、日本に最も多く生息している小型コウモリの赤ちゃん。大人のアブラコウモリですら、大きさが4~6cmと小さいのに、それが赤ちゃんとなると、さらに小さくてひ弱そうに見えるんです。

筆者と同様に、ママ友も元来、動物が大好きな人間。彼女が衰弱したコウモリの赤ちゃんを放っておくことなどできるはずもありません。そこで“コウモリの生態に詳しい”筆者(動物病院に5年勤務経験あり)の元へ相談にやってきたというわけです。

ママ友:「保護したのはいいけどさ、確かコウモリって『鳥獣保護法』か何かで、扱いが難しいんだっけ?」
筆者:「そうそう!無断で飼育したらいけない決まりなん…」

ママ友:「え~!それじゃあ逃がさなくちゃいけないの?この子弱ってるし…個人のブログサイトで『保護しました~!』って書いてる人もいたよ…?」
筆者:「ちょっと待って!逃がさなくてもいいの!でも『無断で』育てるのもダメなの!」

日本には、筆者のママ友のように『家庭で飼育しているペット』だけでなく、コウモリのような『野生動物』に対しても、平等に愛情を抱く“心優しい人たち”が沢山います。しかし、我々人間が抱く『思いやり』は、野生コウモリにとって本当に“有り難い”ものなのでしょうか?

今回の記事では、以前、筆者がママ友と同じく「コウモリの赤ちゃん、保護したらそのまま飼いたいけれど、飼育したらダメなの?」と疑問を抱く読者の方々へ、コウモリの赤ちゃんの『飼育のイロハ』を紹介します。

さらに「コウモリの赤ちゃんを保護した場合には、どんなことに気をつけるべき?」ということについても、順を追って解説します。この記事を読むと、筆者のママ友と同じように、コウモリの赤ちゃんを“いつ”“どこで”“どんな状況で” 拾ったとしても、慌てることなく保護することができるようになりますよ。

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1 これだけは絶対に気を付けてください!

「コウモリの赤ちゃんは飼育してもいいのか?」についてお応えする前に、まずコウモリの『取り扱い』について補足します。

『今後は、コウモリを素手で触らない』これを徹底してください。

実は、コウモリの体表には『シラミ』や『ダニ』などの寄生虫が生息している可能性が高いうえに、コウモリの体内には『カビ菌』をはじめとする有害な微生物が内在しているんです。

※『シラミ』『ダニ』『カビ菌』といった有害生物が“我々人間にどういった悪影響をもたらすか”という点については、後ほど詳しくお話しします。

今後、コウモリの赤ちゃんを触る際には、後述の「Q&A」で紹介する装備を着用してください。

2 鳥獣保護法の適用について

小さくて可愛い、コウモリの赤ちゃん。いつ巣から落ちてしまったのか…弱っているとなおさら、どうにかして元気づけてあげたくなりますよね?
しかし、コウモリは『鳥獣保護法』によって保護指定されている野生動物ですので『故意に飼育』することは許されていません。

鳥獣保護法

『鳥獣保護法』とは、以下で原文を抜粋しますが、簡単に言うと…「ニホンアシカ・アザラシ5種・ジュゴン以外の海棲哺乳類、いえねずみ類3種以外の野生動物は、勝手に狩猟・保護してはいけません」という法律です。

『鳥獣保護法』

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下、「鳥獣保護管理法」といいます。)の目的は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること」とされています。

 鳥獣保護管理法では、「鳥獣」を「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」と定義しています。(中略)ニホンアシカ・アザラシ5種・ジュゴン以外の海棲哺乳類、いえねずみ類3種については、鳥獣保護管理法の対象外とされています。

 
引用元:https://www.env.go.jp/nature/choju/law/law1-1.html

つまり鳥獣保護法とは、「指定の野生動物を捕獲・保護した場合、その生物の生態系が乱れて絶滅に瀕したり、国民みんなの生活や健康、地域事業の発展に影響が及びかねるので、捕獲してはいけませんよ。」という法律なんです。

鳥獣保護法を無視して、野生のコウモリを『無断で捕獲・飼育』した場合には、以下のような罰則か罰金が科せられてしまいます。

無断で捕獲・飼育した場合の罰則、罰金について
鳥獣保護法においては,鳥獣を狩猟鳥獣とそれ以外の鳥獣(以下保護鳥獣)とに区分し,後者については,その捕獲(殺傷を含む.以下も同様)を原則として禁止し,これに違反. する者は 1年以下の懲役または 5 0 万円以下の罰金に処することとしている。

 
引用元:https://www.wbsj.org/nature/public/strix/14/Strix14_17.pdf

では、衰弱している野生コウモリの赤ちゃんをベランダや駐車場などで見つけた場合、どのように対処すればよいのでしょう?

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3 弱っているコウモリの赤ちゃんを見つけたら

ベランダや駐車場、道端に落ちている小さなコウモリの赤ちゃんをそのまま放っておくのは、あまりにも可哀想ですよね?
しかし、ご安心ください。実は、コウモリの赤ちゃんが、ベランダや駐車場に落ちて怪我を負っていたり、衰弱しているのを見つけた場合、『一時的に』保護することは許されています。ちなみに、野生コウモリに限らず、他の野生動物についても『傷病鳥獣の一時的な保護』が、鳥獣保護法により認められています。

2) 傷病鳥獣の保護
• ア 許可対象者
国又は地方公共団体の鳥獣行政事務担当職員(出先の機関の職員を含む。)、鳥獣保護員その他特に必要と認められる者。

 
引用元:http://www.env.go.jp/nature/yasei/9th_plan.html

しかしやはり、我々一般人が何の許可もなく、野生コウモリの赤ちゃんをそのまま飼育し続けることは許されません。

コウモリの赤ちゃんを保護した後は、お住まいの地域にある市役所や区役所に電話して“赤ちゃんコウモリを保護したこと”を相談しましょう。ご自宅の近くに『環境管理事務所』がある場合には、そちらでも構いません。

※環境管理事務所(かんきょうかんりじむしょ)…都道府県ごとに設置されている環境行政機関
その後、保護担当の職員がコウモリの赤ちゃんを保護しに自宅へ来てくれるか、その他の対処法を細かく教えてくれます。

コウモリの赤ちゃんは結局どこへ行くの?

コウモリの赤ちゃんを保護する『目的』は、たった一つ。『最終的に再び野生へ帰す』ということです。

コウモリの赤ちゃんを受け取った保護担当の職員は、その後、動物病院と連携するなどして、コウモリの赤ちゃんの体力回復に努めます。

反対に、保護に関わった我々民間人が、保護担当職員の指示に従って、コウモリの赤ちゃんを動物病院へ連れていくケースもあります。しかし、人間は未だに『野生を生きるアブラコウモリの生態系』を把握しきれていませんので、人間が長い間飼育してしまうと、保護したコウモリの寿命をかえって縮めてしまう恐れがあります。

赤ちゃんコウモリを『最終的に』保護した人間が誰であれ、私たちは、個体に十分な餌と水分を与えて体力を回復させ、1日に1~2回程度外に放野(ほうや)しながら、ヒナが飛び立つその時を待つことになります。

※放野(ほうや)…人間が一時的に保護していた(預かっていた)動物を自然に帰す行為のこと

4 保護期間の一時飼育Q&A

弱っている赤ちゃんコウモリが、いずれ元気に飛び立つことができるように、最善を尽くしてあげたいもですよね?以下では「保護中はどうしたらいいの?」とお悩みの方へ、筆者の『動物病院5年勤務』の経験から、赤ちゃんコウモリを保護した時に気をつけるべきポイントを『Q&A方式』で解説します。

Q1:保護の際に気をつけることは?

A. 小さくて可愛いコウモリの赤ちゃんですが、その体表には『シラミ』『ダニ』といった吸血害虫が寄生している可能性が高いので、触る際には、必ずゴム手袋を着用してください。

さらに、コウモリのフンには沢山のカビ菌が含まれていますので、コウモリの赤ちゃんは室内で保護するのではなく、屋外に段ボール箱を置くなどして、その中で様子を見守った方が安全です。万が一、コウモリの赤ちゃんを素手で触ってしまった場合には、大切なご家族やペットへの寄生・感染を防ぐために、手を十分に洗い、消毒してください。

Q2:コウモリに“巣食う”吸血害虫について

A.コウモリには、大人・子供のどちらにも、カメムシのように強烈な臭いを放つ「コウモリトコジラミ」や、人間の目で見てわかる大きさの「コウモリマルヒメダニ」と「マダニ類」が住み着いている可能性が高いです。

コウモリトコジラミに噛まれた時の症状と対処法

  • かまれた部位が数日のうちに腫れ、同時にかゆみが襲ってくる。
  • シラミに噛まれているのを見つけたら『ノミとりホイホイ』のような『ノミ駆除剤』を室内に置き、被害を未然に防ぎましょう。

コウモリマルヒメダニ・マダニ類に噛まれた時の症状と対処法

  • どちらのダニに噛まれても、すぐさま皮膚にかゆみが起こる。
  • 万が一、ダニが人間やペットに噛みついているのを見つけた場合には、以下の通り落ち着いて対処してください。
  1. 高濃度のアルコールやクロロフォルムを綿棒に染み込ませ、害虫にたっぷりと塗りつけて衰弱させます。
  2. 噛みついた針が皮膚に残らないよう、肌からゆっくり慎重に引き剥がしてください。

Q3:コウモリの赤ちゃんって何を食べるの?

A. コウモリの赤ちゃんは、水を飲み、生きている虫をエサとして食べます。虫、とはいっても、釣り具店で手に入る『ミルワーム』で構いません。

ミルワームをピンセットでつまんでコウモリの赤ちゃんの口元へ持っていくと、お腹を空かせている場合にはすぐに食べてくれますよ。万が一、コウモリの赤ちゃんがミルワームを食べてくれない時は、コウモリの赤ちゃんがミルワームを食べやすいサイズに小さく切り刻んでから、再度与えてください。

また、お水はスポイトから吸わせるか、ガーゼに染み込ませて吸わせるなどして与えます。小動物用のミルク(ペット用ミルク)を購入し、それを与えても良いです。

Q4:飼育はいつまで許されるの?

A. コウモリの赤ちゃんを保護した後は、私たちが『故意に』飼育期間を延ばしたり、勝手に決めることはできません。

『コウモリの赤ちゃんを保護してもよい期間』は、お住まいの地域にある市役所や区役所、もしくは最寄りにある環境管理事務所の判断に委ねられますので、独断で飼育を続けずに、必ず関係機関の指示を仰ぎましょう。

まとめ 「コウモリ赤ちゃんの飼育は難しい!」

筆者のママ友は、私のアドバイスを元に、保護担当職員が来るまでの2日間、コウモリの赤ちゃんを育てました。筆者も、彼女の家を訪れて、コウモリ赤ちゃんの飼育をサポートしましたが、残念なことに『2日間』という短い期間の中で、コウモリの赤ちゃんが元気になることはありませんでした。

目立った怪我もなく、小さく切ったミルワームも食べることができ、ペット用ミルクも飲めたのに、それでも彼(彼女?)の元気は戻らなかったんです。その経験から、筆者もママ友も、我々人間が『野生コウモリの保護に望ましい環境を揃える難しさ』を痛感しました。

“保護機関と連携して、少しでも早く野生に戻してあげること”こそが、コウモリの赤ちゃんにとって一番『望ましい』選択肢であると言えます。